F.Ko-Jiの「一秒後は未来」

「久慈と能年玲奈とアイドルは大博打だった」 あまちゃんプロデューサーが語ったヒットの裏側

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Short Shorts Film Festival & Asia 2013」にて開催された『日本の朝を変えた15分訓覇式「あまちゃん」現象へのプロセス』というワークショップに参加してきました。

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ワークショップは最初にあまちゃん第1話が上映された後、チーフプロデューサーの訓覇圭氏が登場。あまちゃんの企画段階からのエピソードが、ウラ話や苦労話を交えつつ語られました。第2部では演出の1人である吉田照幸氏も登場。途中にドラマのワンシーンを上映して演出面を解説するといったマニアックなトークでも盛り上がり、第3部は質疑応答という流れでした。

以下、ワークショップ中にメモした内容を箇条書きメインでどうぞ。

最初の仮タイトルは「ママはアイドル」だった

  • あまちゃんの企画は2011年の5月に始まる。とにかく喜劇、笑えるものをやりたい。
  • 宮藤官九郎氏が朝ドラを書きたいと言っていたのを覚えていて、6月に初めての打ち合わせ。
  • 7月に2回目の打ち合わせがあったが、訓覇氏は何もアイデアが思いつかないまま、その場で思いつこうと思って臨んだ。
  • その打ち合わせで宮藤さんが「田舎を書きたい」「大衆演劇とか」と言う。
  • 「村おこし」という案。それを「地元アイドル」がやるんですよ、「ママもアイドル」なんですよという案が出る。
  • というわけで、あまちゃんの仮タイトルは「ママはアイドル」だった。

ちなみに「ママはアイドル (仮)」はこんなストーリー。

「東北の秘境」に現れた1人の少女
村に伝わる「伝説のカッパ舞(仮)」で
「地元アイドル」となり、
過疎の村を救う物語!

カッパ舞がかなり衝撃的ですが、2011年の震災数カ月後のあの頃にすでにあまちゃんの原型ができていたというのに感心させられます。

訓覇氏の大博打

  • あまちゃんには大博打が3つある。それは「久慈」と「能年玲奈」と「アイドル」。
  • 特に「アイドル」についてはなかなかうまく言葉にできないので、企画を通すときには「博打です」と言っていたらしい。
  • 宮藤さんの脚本は否定するのが惜しい。
  • 9月、舞台を東北に想定。どこを取材するか?東北なのに「山」って変。海から攻める → 海女さんがいますよ
  • 訓覇氏は舞台の地域を探す時に、最初に街が見渡せる場所へ行くようにしている。
  • 久慈は「海が見えない」「人が歩いていない」「車は走ってる」中途半端な街。
  • カッパ舞を探していたが、祭りが微妙だった。
  • 海人のおばちゃんに会う。「じぇじぇ」って言ってる。
  • 三鉄の人は開業当時の話をたくさん語る。ずっと赤字だとネガティブなことを自虐的に話す。
  • しかしスナックに行くと男たちは元気になる。
  • 久慈は「人」が素晴らしい。
  • 11月、宮藤さんをつれて久慈へ。
  • 宮藤さん「ここは選ばれた場所。だって遠いもん!」
  • 取材帰りの新幹線は伝説の3時間だった。

このあたりで第1部は終了。第2部から吉田ディレクターも登場。吉田氏は「サラリーマンNEO」を担当していた方で、打ち切りが決まって傷心していた頃にちょうどあまちゃんの話が来たのだとか。

町の名前は大事

  • ドラマを作る上で、町の名前をどうするかかなり議論した。
  • (町のことを)悪く言うので架空の名前がいい。
  • 「リアス市」はすぐ却下された。
  • 現実とクロスするように、岩手や盛岡などは現実の名前。「北三陸市」は現実にありそうな名前。
  • 舞台の町だけ架空の名前で、そこからファンタジー。

オーディションと能年玲奈

  • 2012年4月にオーディション
  • 訓覇氏は「誰も見つからないのでは」という不安がすごかった。
  • オーディションの履歴書は「写真」と「キャリア」が大事。
  • NHKは「平等」なのでオーディションでは誰に対しても同じ質問をする。
  • 能年玲奈が入ってきたときに空気が変わった。訓覇氏は「ヒロイン候補が一人いて安心した」「とりあえずヘマだけするなよ」と思っていた。
  • 能年さんの第一印象は最高。最終審査の芝居は一番下手だった。
  • 「25m泳ぐの大丈夫?」「はいっ」→ (明らかに泳げないだろw)
  • しかし能年玲奈が奇跡を起こす。
  • 横に5mしか泳げなかったが下に5m潜れた。潜るのだけはうまかった。

この辺りで「アキが自転車で飛んで海に落ちるシーン」と「前髪クネ男」の登場シーンが流される。

  • 能年さんは笑いに対して要求が高い。自転車が飛んで落ちるシーン、「もし飛ぶんだったら違う演技だったのに」と言っていた。
  • 能年さんは疲れた顔を現場で見せない。一度も倒れなかった。
  • 能年さんの猫背が直らないが、訓覇氏はあきらめた。
  • 能年さんは口数は少ないが伝えたことは正確に理解している。
  • 前髪クネ男の腰の振りは横バージョンもあったが横はやめた。が、縦にして結果余計に卑猥になった。
  • 古田さんがクネ男の演技指導をしていた。
  • 能年さんは白目を練習してきた。
  • 白目すぎて完全にアウトだったが、ユイちゃんに「面白いですよ!」と言われて押し切られた。

宮藤官九郎の脚本とキャスティング

  • 脚本で1週目のアキはほとんどしゃべらない。場に慣れるため。そのため内気な性格という設定にしている。その後、口の悪いコになるが、それがよかった。
  • ユイちゃんは急に声がデカくなるので音声さんがよく慌てていた。
  • 宮藤さんの脚本は先が分からない。その状態でのキャスティングが難しい。
  • 宮藤さんの脚本に大人計画の役者はいたほうがいい。ハマる。
  • プロデューサーはキャスティングで現場を刺激するのが仕事。東京編はかなり振り切ったキャスティングをした。
  • 宮藤さんの脚本はよく1場面に大人数いるが、無駄な人がいない。必ず役割がある。
  • 松田龍平さんの役(ミズタク)は「謎めいた男」とだけ説明されていた。

大吉を挟んでの離婚届けシーン、そしてサンタ

  • ヒロインの両親が離婚する話は、普通は1週間かけてやるもの。
  • 訓覇氏が「1日なの?」とびっくりするも、宮藤さんは「正宗でしょ?1日でいいっすよー」
  • 大吉がいるのに大吉を無視して会話が進む。リアリティを越えた心情を描く。
  • コミカルに見せるために三角形の配置にした。
  • 素直なシーンに見えるところほど高度な割り切りがある。
  • 宮藤さんの脚本は大事なシーンがさりげなく書かれている。

そしてアキがリアスで「サンタの存在を信じている」というのを馬鹿にされるハチャメチャなシーンから、正宗が特殊メイクでサンタになるというシーンへ繋がるが、

  • 過去にNHKでサンタをお父さんがやってクレームが大量にくる事件があった。なのでサンタのシーンは特に気をつかった。
  • アキがサンタがいることを信じている → ヒロインのキャラが完全に崩壊する恐れ。
  • なのでカッパや海坊主とか方向を変えてうやむやにしつつ、サンタがいるんだとも信じられるよう特殊メイクにした。
  • その結果、尾美さんが「おれ、いる?」と。
  • 春子がサンタを見送ると心情が切れない。なので夏ばっぱにサンタを見送らせた。
  • どこまでサンタっぽい声でいくのか迷った。

質疑応答

ちょっとメモにあやふやな部分がありますがご了承ください。

Q. 伏線って最初から考えてるの?

  • 色々だが、宮藤さんなら全部書ける。しかし自然に出てきてやっていくほうが面白い。
  • ジオラマを壊す案は最初からあったが、決めたのは後で。ジオラマ自体は脚本に「観光協会にはジオラマがある」と書かれていた。

Q. さかなくんのキャスティング

  • 「みつけてこわそう」は最初はアキだけの予定だった。
  • 宮藤さんが「じぇじぇじぇ、ぎょぎょぎょをやりたい」と言ってきた。
  • 実際にさかなくんは久慈の名誉市民、魚を寄贈するエピソードも知っていた。
  • 結果としておじいちゃんマスコットキャラの立ち位置が微妙に。声は吉田ディレクターがやった。

Q. 震災のこと

  • 東北を元気にするという所から始まったドラマではない。
  • 朝にそんな光景を見せてはいけない。
  • 当日の話は事実ベースでないと書けない。
  • アキが震災直後に帰るとそれを描きたかったように見えてしまうので帰るのを遅らせた。
  • アキが喋らない構成になっているのは、アキがしゃべるとシラケると思ったから。

Q. ドラマ内の80年代音楽など

  • やっちゃいけないことに決まりがない。例えば商品名を言ってはいけないが、具体的な決まりがない。プロデューサーの判断に委ねられている。
  • 薬師丸さんが歌っているとき、吉田ディレクターは「あー上手いんだー」と思って観客の気持ちになっていた。
  • DVDで「ブリっ子」のくだりがカットされているのは、特にトラブルはない。

Q. 橋本愛や有村架純はオーディションにいたの?

  • みんなオーディションに参加していた。小野寺ちゃん役の優希美青だけは年齢制限でオーディションを受けていない。
  • ヒロインオーディションだったが、他の役のキャスティングも考えていた。
  • 宮藤さんのこだわりは、絶対に地元出身のタレントにしたいということだった。「アキ以外は方言的にネイティブ」

Q. なぜ鉄拳のアニメーションを?

  • 吉田ディレクターがタイトルバックの案を探している時に、鉄拳の振り子のアニメーションを見て感動していた。
  • 第1話の脚本に「アニメーション?」とだけ書かれていたので、鉄拳を提案した。
  • ほとんどアニメーションという回もあったので、試写の時に「全部面白いと思わないでください」と伝えていた。
  • ヘビを飛び越えるという所のアニメーション、もともとは「ヘビは実写」と書かれていたが、無理なのでアニメーションにした。

Q. 春子と夏ばっぱの「ただいま」「おかえり」のシーンを見て朝ドラを作りたいと思った。朝ドラを作るにはどうすれば?

  • NHKを受けよう。
  • 春子が家に入る前と入った後で表情が変わる。そんなところに面白さを感じられるのならドラマ作りに向いている。

Q. アドリブはあるのか?

  • 台詞のアドリブは99%ない。動きはある。
  • 訓覇氏は、アドリブじゃないけどアドリブに見える芝居を作りたいと、ずっと思っていた。

Q. バラエティが得意な吉田ディレクターを、なぜコミカルでない週にも起用したか?

  • だいたい最初はチーフディレクターが演出をするので、必然的にストーリーの転換する場面の演出が多くなった。
  • 吉田ディレクターがエモーショナルな回を演出するとどうなるか見たかった。
  • アキが「アイドルになりたい」と言ってビンタされた後に、金色夜叉をパロった回想シーンがあったが、ボツにした。ボツになったのはこれだけ。

Q. 薬師丸ひろ子のキャスティングなど

  • タクシーの中のエピソードなどもろもろ最初からあったが、最終的に歌うかどうかは決めていなかった。
  • 春子の若い時代は有村架純だというのを視聴者に植え付けるために回想シーンをたくさん入れた。
  • 東京編で能年さんをナレーションにしたのは有村さんのシーンで「ママが」と言わせたかったため。

最後に映像関係のクリエイターの人たちにアドバイスを求められ、訓覇氏は「もともと朝ドラは一番センスがないドラマだと思っていた。色々ドキュメンタリーなどもやったが、失敗でもいいから(作品を)出していくこと、作り続けていくことが大事。」と答え、吉田氏は「小さなリアリティにこだわらず、感情のリアリティを追求してほしい。自分のエゴのためではなく見る人を喜ばせるために作ってほしい。そうすれば環境ややり方が変わってもやっていける。」と答えられていました。

「結局、訓覇さんが打った3つの博打が当たったからあまちゃんはヒットしたのか?」という問いに対して、訓覇氏は「そうでしょう」と肯定、吉田氏の「訓覇さんは博打を打ち続けたことが素晴らしい」という言葉でワークショップは終了となりました。

訓覇氏が「大博打以外の部分は丁寧に作った」とおっしゃっていましたが、あまちゃんがヒットしたのは大博打が当たったところ以外にも、企画段階の綿密な取材と、それを上手く取り入れた脚本、その脚本を生かす演出とキャスティングといったバランスが完璧だったゆえのヒットだったのかなと感じました。

4時間という長丁場でしたが、こうやってドラマの企画から演出まで色々な話を聞ける機会はめったにないし、メモリアルブックでも語られていない内容もあってとても面白かったです。ありがとうございました!

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著者について

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F.Ko-Ji

Webエンジニアやってます。最近は ドットインストール の開発がお仕事です。その傍ら、個人で Meity電車遅延なう梅酒.in#グラドル自画撮り部 の部室といったネットサービスを開発・運営してます。梅酒と草野球とリアル脱出ゲームが好きです。

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